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参画教員紹介 小田 隆史 准教授(東京大学大学院総合文化研究科)

小田 隆史 准教授
東京大学大学院総合文化研究科

 

◆研究活動概要
 私は福島県いわき市出身であり、東大に着任する前は、10年近く、宮城県にある教員養成大学で研究していたこともあり、東日本大震災の被災地の復興や、震災の教訓を生かした防災教育、学校や地域の防災などの研究に力を入れています。
 地域連携の例として、最近、東京都世田谷区が地元の高校と協力して刊行した、区民向けの在宅避難に関する冊子『災害時お家生活のヒント』の監修に関わりました。地方と都市部では地域特性が異なるため、災害への備え方も異なってきます。GIS(地理情報システム)を活用した災害への備えの重要性や留意点を示しながら、地域の実態や実情に応じた防災を考えるワークショップなどを行っています。
 地元の人たちがその場所をどのように表現し、どのように語り継ぐか――地元の人たちにとっての場所の意味を突き詰めていくことも、地理学的に重要なテーマです。また、まち歩きをして、地形を実感したり、人間が自然の恩恵を受けながらどんな街をつくり暮らしているかを知ること、それはその地域の<地誌>を理解することであり、それが地域防災に直結すると考えます。その地域の先人たちが残した災害に残したメッセージを掘り起こし、それをどのように語り継ぐか、その地域の経験から他の地域へ何を伝えたいのか、という視点を持つことが大切です。

 


◆学校と地域の連携が重要 
 防災においては、平時からその地域を良く知る住民と、地域に根ざした学校が良い連携を構築し、いざという時に、地域が学校等の施設を活用しながら災害を乗り切ることが大切です。マニュアルを作り、どういう状況のときに、どこに避難するかなどの情報を学校が地域と事前に共有しておくのも有効です。近年、「地域特性の把握」は学校防災でも強調されており、教職員の防災リテラシー向上が課題となっています。そのために、教職員や学校と関係がある地域のリーダー等に対する研修や講演や教材開発も行っているほか、海外勤務の経験もあり、JICA研修を通じて諸外国の防災人材育成にも関わっています。

 ◆関連書籍
小田隆史編著『教師のための防災学習帳』(朝倉書店、2011年)
https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja/J_00137.html UTokyo BiblioPlaza より
小田隆史・佐々木克敬『学校安全ポケット必携』(東京法令出版、2023年)
https://toho.tokyo-horei.co.jp/shop/goods/index.php?14576

参画教員紹介 菊池 康紀 教授(東京大学未来ビジョン研究センター)

菊池 康紀 教授
東京大学未来ビジョン研究センター


◆研究活動概要
 どういう地域で在りたいかという夢や目標を地域の方々と明確にしたうえで、地域の取り組みが“ゼロカーボン”にもつながる仕組みづくりを行っています。地域のリソースには限りがあるので、大学がハブとなって企業や地域の方々と連携し、人、知識、技術、情報を組み合わせ、皆で協力し合って考えていける“Co-Learning”を基軸とした“CO-JUNKAN”のプラットフォームをつくり、地域のサステナビリティを追求しています。
 2009年から地域に入り、現在は4箇所の地域でサテライトを置き、活動しています。例えば、長年携わっている種子島では、外からの化石燃料に頼らず、島の中で余っているサトウキビの搾りかすなどから代替燃料を製造するシステムを設計しました。現在は、地元の森林組合や企業、自治体と連携してプラントを建設しています。また、和歌山県や岩手県では、カーボンニュートラルの問題に、農業の担い手確保や人々の暮らしの維持といった課題を関連させながら、地域の大学とともに農林水産業の振興を進めています。さらに、域内に大学のない佐渡島では、廃校になった小学校を活用している酒造を拠点に、地域の教育機関・公共団体と学び合いの場を創出し、エネルギー問題に対処しています。


◆大学が地域と連携するために
 地域のご協力を得るために、専門分野に関する課題(エネルギー問題)を、自治体の重点課題(福祉など)と関連させながらアプローチしています。
 また、大学が地域に入る際には、地域の様々な悩みを受け止める覚悟を持ち、大学が実証試験を終えた後も地域の方々が社会実装していけるように企画することが大切です。例えば、種子島では、補助を受けた実証実験の後はプラントを地域で活用できるように体制を創り域外の企業も関われるような特定目的会社を設立するなどして体制を整えています。

◆関連書籍・資料
大久保達也・菊池康紀・下野僚子(2021)『地域×大学×企業の協創で種子島に「プラチナ社会」を実現!:東京大学未来社会協創推進本部、東大×SDGs: 先端知からみえてくる未来のカタチ』山川出版。
東洋経済「産学公の連携を地域の原動力に、ビヨンド・“ゼロカーボン”を実現する好循環を生み出していく。Beyond “ZeroCarbon”」 2022年11月2日。https://toyokeizai.net/articles/-/627529

参画教員紹介 山野 泰子 講師(東京大学未来ビジョン研究センター)

山野 泰子 講師
東京大学未来ビジョン研究センター

 

◆研究概要 
 地域に集積した企業間のつながりによってつくられるビジネス生態系に着目し、複雑ネットワーク科学の手法で解析をしています。森の生態系に撹乱をもたらす穴の修復過程から研究の構想を得たのですが、企業間取引において、各企業が一部の取引先を入れ替えることによって生じるダイナミクス(企業の新陳代謝)や、ネットワークの構造的空隙を埋め、クラスター(取引関係が密な企業群)に多様性をもたらす企業の特徴を研究しています。地域に関するこれまでの研究の中には、東日本大震災のあった2011年を含む10年間の時間軸を設定し、東北地方のサプライチェーンを分析した研究があります。

◆研究からの示唆 
 解析の結果、取引先企業が硬直化している企業や、逆に大きく変動している企業の存続年数は短く、そのいずれでもない、中間の新陳代謝度をもつ企業が生存競争において優位となっていることが明らかになりました。また、企業間のネットワークの大きな構造的空隙を埋め、より遠くに位置する異質なクラスター同士を結びつける役割を果たす企業が、地域クラスターに多様性をもたらし、進化を触媒している可能性が高いことが分かりました。企業間ネットワークの進化には、企業の取引先を維持する力と変更する力といった拮抗する2つの力のバランスが重要だと言えます。

 なお、このような示唆は東北地方特有のものではなく、特に企業の新陳代謝度と存続年数の傾向を見ると、中部地方や九州地方においても同様の特徴が確認されています。一方で、地域クラスター毎に進化の系譜が大きく異なることもわかっています。データから特徴を明らかにし、それぞれの地域クラスターの固有性やクラスター間の相互関係を踏まえた施策を検討していくことが大切です。

◆関連書籍
山野泰子(2024)『地域ネットワーク解析:ビジネス生態系におけるつながりの構造と新陳代謝』東京大学出版会。

参画教員紹介 内山 融 教授(東京大学大学院総合文化研究科)

内山 教授
東京大学大学院総合文化研究科

 
◆研究活動概要 
 これまで、主に英国の行政機関で取り入られている「エビデンスに基づく政策形成(EBPM)」について研究し、EBPMの制度を日本にも応用できないかと検討してきました。英国では、各省庁に経済学、統計学、社会調査などの分野の分析専門職員が配置されています。こうした事例を参考として日本の行政機関でもEBPMを導入することを提言してきたこともあり、現在、政府ではEBPMが制度化されています。EBPM担当の幹部ポストも設置されました。自治体でも横浜市や広島県などがEBPMを導入して、効率的・効果的な政策形成を追求しています。このうち地域との関わりとしては、特に、広島県でのEBPMの制度構築に初期の段階で携わりました。


◆EBPMと地域 
 どの地域でも財政的資源、人的資源が限られているため、少ない資源をより効率的・効果的に活用し、住民の暮らしを向上させるうえでEBPMは有効です。EBPMは、子育て支援、教育、防災など、様々な地域の政策領域に応用できます。例えば、広島県では、「住民に避難行動を呼びかける際にどのようなメッセージが有効か」を検証し、その結果を防災政策に反映しています。

 広島県などでの事例から、自治体がこのような制度を導入するには、①首長のリーダーシップと②職員の意識と能力の向上が重要だと考えます。政治家や行政職員などがエビデンスを重視して政策を決定することの重要性を理解し、行政組織の中で専門性を育み、大学やシンクタンクなど外部の研究者とネットワークを持つことが大事です。また、大学が携わる際には、住民のプライバシーを守りつつ、いかに行政のデータを活用していくかを検討しなければなりません。

◆関連書籍
大竹文雄・内山融・小林庸平編(2022)『EBPM : エビデンスに基づく政策形成の導入と実践』日経BP日本経済新聞出版。

参画教員紹介 赤川 学 教授(東京大学大学院人文社会系研究科)

赤川 教授
東京大学大学院人文社会系研究科


◆これまでの研究
 少子化をテーマに長野県などで研究を行ってきました。少子化問題は、男女共同参画、子育て支援、ワークライフバランス、地方創生などの観点から扱われることが多いですが、その根拠とされる統計を見ると、本当に政策の根拠となりうる妥当な統計なのか、という問題があります。また少子化や人口減少のデメリットは、子どもを増やすことで対応できるのか、すべきなのかという社会構想が中心的なテーマになります。視点を変えれば、一人あたりのGDPが高い国を中心に、世界全体で少子化が進んでいるという事実があります。少子化を受け入れて、各地域でそれぞれの地域の在り方を決定しながら、どのような社会をつくっていくかを考えることが重要と考えています。

 

 また、信頼、互酬性、ネットワーク(社会参加など)の3要素で構成されるソーシャル・キャピタル(社会関係資本)論を用いて地域調査を行ったこともあります。まず、長野県では、限界集落とされる2つの村に着目し、一方では生き甲斐に満足しており、もう一方では友人関係に満足することで健康や幸福度が高まるという特徴を明らかにしました。また、川崎市では、様々な困難を抱えている人々も包摂する在り方を探りました。調査の結果、地域に対する信頼度が高い人、スポーツや趣味などの水平ネットワークに参加している人ほど幸福度が高いことが分かりました。つまり、ソーシャル・キャピタルを高めれば、個人や地域のウェルビーイングが高まるという因果関係が、ある程度明らかになりました。

◆現在の研究
 現在は、猫と人の関係を扱う猫社会学に取り組んでいます。地域に関しては、例えば、地域猫の在り方を自然科学とは別に、社会科学の観点で深めていけたらと思っています。

◆関連書籍
赤川学(2018)『少子化問題の社会学』弘文堂。

参画教員紹介 川添 善行 准教授(東京大学生産技術研究所)

川添 善行 准教授
東京大学生産技術研究所

 

◆研究活動概要
 2019年末頃から福井県坂井市にある東尋坊の再生プロジェクトに関わっています。2027~28年頃の完成を目指し、坂井市と福井県との共同事業として、建築、まちづくり、都市、マネジメントなど学外の専門家とチームを組んで進めています。

 東尋坊は、柱状節理の崖が有名な、福井県内で最も訪問者の多い地域です。ですが、これまでの地域の歴史を振り返ると、まちのデザインに環境の価値が活かされているようには見えませんでした。この地域では、東尋坊の持つ地質的な価値を人の価値にどう転換していくかが重要になります。そこで、北陸新幹線が敦賀まで延伸したことを機に、人工舗装された空間を減らし、将来的に様々な使い方ができることを意識しながら、新しい価値を創出しようと考えています。

 具体的には、環境価値を保存・継承しながら、歩行者ネットワークを再構築し、その中に新しい商店街とこれまでの生業を融合させます。また、まちのエントランスに地形を感じる大階段を設けるなどパブリックスペースを戦略的に配置するほか、日本海の夕日を眺め夜間の活動にもつながる場を創出するなどして、滞在体験を生み出す空間をつくろうとしています。

 
 長年の観光スタイルを変え、再開発に向けて住民の合意形成を図ることは難しいですが、時間をかけて地道に話し合いを重ねながら、本事業を進めています。

◆学問と地域
 学問は普遍的・抽象的なものを求めますが、地域の価値は抽象化すると何も残らなくなってしまいます。ですので、その地域における個別性を大切に考えながら地域研究に取り組んでいます。

◆関連書籍
川添善行(2024)『Overlap:空間の重なりと気配のデザイン』鹿島出版会。

参画教員紹介 機構長 坂田 一郎 教授(東京大学大学院工学系研究科)

機構長 坂田 一郎 教授
東京大学大学院工学系研究科


◆研究概要
 深層学習、自然言語処理、ネットワーク分析という情報分野の技法を使って、人及び組織の判断やそれに基づく行動を対象とした研究を行っています。分析の対象としている活動は、企業のイノベーション、科学者による学術研究、商品や店舗に関する個人のレビュー、鉄道を使った人の移動など様々です。
 そうした研究から、例えば、学術活動を対象とした研究では、科学者の「ホットストリーク」はキャリアの中でいつ頃に多く生じるのか、国ごとの研究トピックの先進性や遅れはどのような要因によって生じているのか、といった知見を引き出しています。また、同時に、企業のイノベーション経営や政府の科学技術政策の立案に役立つ実用的な手法やツールの開発も行っています。それらにより意思決定支援を行う枠組みを「テクノロジー・インフォマティックス」と呼んでいます。

◆地域の視点での研究活動
 情報分野の技法と企業の属性や取引に関する大規模データとを用いて、地域の企業コミュニティやそのダイナミクスに関するデータドリブンな研究を行っています。また、それら研究成果を用いた社会貢献活動も重視しています。例えば、東日本大震災の際には、被災地域の企業コミュニティに関する分析を行って中小企業庁に提供したほか、政府が約4,700社に及ぶ「地域未来牽引企業」の選考を行った際には、潜在的な重要企業を見つける方法として「コネクター・ハブ企業」の枠組みを提供しました。


◆最近の書籍
共著(2023)『未来を変えるには:東大起業家講座に学ぶ新しい働き方』講談社。
共著(2024)『クリエイティブ・ジャパン戦略』白桃書房。

日本のODA政策と外国人の社会統合に関する日韓共同ワークショップのご報告

2024年4月24日(水)14:00頃から16:00頃まで、地域未来社会連携研究機構オフィスにて、Korea and Japan Joint Workshop on the Changes in Japan’s ODA Policy and Social Integration of Migrants(日本のODA政策と外国人の社会統合に関する日韓共同ワークショップ)を実施しました。

これは、機構参画教員の一人である小口高教授(新領域創成科学研究科)のご紹介により、移住と開発研究に取り組む、ソウル国立大学のパク・スージン(Soojin Park)教授を始めとする研究者の日本訪問に合わせて開催されたものです。両者に共通する関心事として、人口減少と地域未来という課題があります。今回はこの課題に対し、移住と開発という視点からアプローチしました。当日は、韓国から5名、本学から4名(うち機構参画教員2名)が参加し、社会科学研究所の保城広至教授と三重サテライトの土田千愛特任助教が講演しました。

ワークショップでは、まず、保城広至教授が「The Rise and Fall of the National Interest in Japan’s Foreign Aid Policy (1952-2022): War Reparations, Export Promotion, and Competition with China(日本の対外援助政策における国益の興亡(1952-2022年):戦後賠償、輸出促進、中国との競合)」をテーマに発表しました。戦後という長期的な視座から、アジア地域におけるODAを中心とした日本の対外援助政策の変遷にみられる特徴ついて、その時々の日本政府の態度と国益の捉え方を明らかにしながら論じました。


続いて、土田千愛特任助教が「Migrants’ Social Integration in Japan From the Regional and National Perspectives(地域・国家の観点からみた日本における外国人の社会統合)」をテーマに発表しました。日本の出入国管理政策と多文化共生政策の動向に触れた後、三重県四日市市を事例に、国家レベルでの社会統合政策が不在のなか、地域レベルで外国人を包摂しようとする取り組みを紹介し、政策的課題を指摘しました。


ディスカッションでは、対外援助政策と外国人政策それぞれについて、発表の中で例示したデータの背景にある実態を確認しつつ、日韓の政策の共通点や違いについて意見交換が行われました。

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  • 投稿日:2024年04月24日

部局横断型教育プログラム 9月修了者の修了証の申請について

2024年度9月修了予定者で、地域未来社会教育プログラムの修了証を希望する方は、5月7日(火)〜5月26日(日)の期間にUTASで修了証申請手続きを行なってください。

詳細については、下記ファイルをご確認ください。

1_部局横断型教育プログラム 9月修了者の修了証の申請について<お知らせ>

2_部局横断型教育プログラム 9月修了者の修了証の申請について<お知らせ>【English】

3_部局横断型教育プログラム修了証WEB申請 by UTAS

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  • 投稿日:2024年04月16日

ユマニテクプラザ5者協定締結5周年記念セミナーのご報告

2024年3月28日(木)14:00から17:30頃まで、四日市市にありますユマニテクプラザにて、「グローバリゼーションの時代において、日本有数の産業集積地である三重県北勢地域にとって有益な産学官連携とは」をテーマに、ユマニテクプラザ5者協定締結5周年記念セミナーを開催しましたので、ご報告いたします。当日は約70名の方々にご参加いただきました。


当日は、みえ大橋学園の大橋理事長様の挨拶の後、まず、報告①として、三重大学副学長兼北勢サテライト長の今西教授が「『地域共創大学』に挑戦している三重大学が北勢地域で実践した産学官連携とは」をテーマに講演し、三重大学での産学官連携の取り組みを紹介しました。

次いで報告②では、東京大学地域未来社会連携研究機構三重サテライトの土田千愛特任助教が「外国籍者との共生と人口減少対策に向けた産学官連携の在り方」をテーマに、お話しました。報告②の前半では、主に研究活動における四日市市との連携を紹介しました。そして、四日市市との連携から得られた示唆として、連携には、

  • 特定の地域課題を解決するために、その分野を専門とする研究者と実務家(自治体、NGOなど)がともに問題意識を共有すること
  • 密な連絡、必要に応じた面談、双方のイベントへの参加などを重ねて、地域課題に関する「悩み」を共有できるような信頼関係を構築すること

が大切であるという考えを共有しました。そして、連携は目的ではなく、あくまで地域課題を解決するための手段であるべきだと強調しました。

出典:みえ大橋学園提供

また、報告②の後半では、人口減少と外国籍者数の増加によって地域社会が変容するなか、今後の産学官連携に向けて三重県北勢地域で取り組むべき研究課題を提示しました。まず、現況として、2023年12月時点で日本に在留する外国籍者数は341万人を超え、三重県在住の外国籍者数(62,561人)も過去最多を更新しました。近年、政府は、出入国管理政策をどんどん緩和し、いわゆる外国人労働者の受け入れの拡大を図っており、日本はファーストキャリアの国として選ばれやすくなっています。併せて、北勢地域では、企業や学校法人が自ら海外に赴き、人材確保を行っているところも少なくないため、今後も北勢地域における外国籍者数は増加していくものと思われます。

出典:みえ大橋学園提供

ただし、日本では、諸外国のように移民の受け入れを表明していないため、社会統合について政府は明確な方針を打ち出すに至っておらず、実質的な政策は各自治体に委ねられているのが現状です。また、これまで多文化共生政策は、製造業が盛んな外国人集住地域で日系ブラジル人などを想定して発展してきた政策であるため、支援の側面が強く見られます。そのようなことから、定住を前提としない留学生や外国人労働者には「何をどこまで行えば良いかが分からない」という壁に直面しやすい政策状況にあります。そこで、北勢地域における特徴を踏まえ、今後は、

1.留学生や外国人労働者など一時的にいるたちとどう共生するのか
2.外国人住民≠留学生、外国人労働者という実態にどう対処するのか

といった視点も取り入れて「地域の担い手」の確保、ひいては少子高齢化や人口減少によって起きている労働力不足や地域づくりの担い手の不足といった課題に、産学官が連携してアプローチする必要があることを示しました。そして、研究としては、学校法人や企業の皆様からご協力いただけるのであれば、外国籍者の社会統合に関する実態を調査し、自治体の施策を社会統合の観点から政策評価したいとお伝えしました。

出典:みえ大橋学園提供

パネルディスカッションは、

  • 産学官連携による研究開発の狙いはどこにあるのか
  • 担い手の確保に向けた仕組みをどう構築していけるのか

という2つの論点で、ユマニテクプラザの藤井館長様の進行のもと、三重大学、三重県、三重県産業支援センター、東京大学それぞれが見解を述べました。

まず、論点①について、土田特任助教は、大学教員として地域に常駐し、様々な方々とかかわってきたという経験を踏まえて、

  • 1つの物事を深く追求した先で自分(たちの組織)だけでは解決できない課題に直面したときこそ、他者の力が必要になるとき≒産学官連携が必要なときであること
  • そうした「悩み」は、日常的なコミュニケーションを重ねている過程で共有されやすいこと

をお話しました。ただし、共有された「悩み」が本質的であればあるほど簡単に解決策を導き出すのは困難であること、さらに、大学が研究成果をもとに政策提言を行うまでには通常、時間を要することもお伝えしました。

出典:みえ大橋学園提供

また、論点②については、

  • 一時的な居住者へのアプローチ
  • 譲れないものの明確化と発想の転換

についてお話しました。報告②の中でも触れたように、日本は外国籍者にとって「入ってきやすい国」になる一方で、住み続ける・働き続けることは依然として難しいままです。まず、「住み続ける」については、定住を前提としない外国籍者の一時的な居住にどのように対応するかを日本人の単身赴任者などと同じ文脈で検討していくことが重要です。さらに、「働き続ける」については、外国籍者に「日本人化」を求めるのではなく、また、大切なことを譲歩してしまわないように、譲れない大切な価値観や慣習は何かを明確にしたうえで、「働きづらさ」を生み出しているところについて、柔軟に発想を転換させていくことの大切さをお話しました。

年度末のお忙しいところ、長丁場だったにもかかわらず、ご参加いただきました皆様、誠にありがとうございました。