機構長あいさつ

現在、世界は、デジタルトランスフォーメーション(DX)とグリーントランスフォーメーション(GX)という「二重のパラダイムシフト」の渦中にあります。デジタルについては、道路や鉄道と異なり超高速ブロードバンドへのアクセスに関して地域的な格差は小さく、それは、あらゆる地域に大市場や情報の集積地との距離の制約を乗り越える力をもたらします。また、グリーンに関しては、地域には、自然資本をはじめとして持続可能な社会づくりに貢献しうる様々な資源が豊富に存在しています。従って、我々が直面をしているパラダイムシフトは、地方の物理的な条件不利性を緩和するとともに、地域が持つ社会的な価値の創出力を高める可能性を秘めていると考えることができます。こうしたことを背景に、例えば、政府の国土審議会では、従来とは性格を異にする次期国土形成計画策定に向けた議論が開始されており、そこでは、住民生活を支えている地域生活圏もフィジカルとデジタルの融合が加速するなかでその在り様が大きく変化するものと考えられています。私たちは、このパラダイムシフトをチャンスとして活かし、それをインクルーシブな地方創生や幸福実感の高い社会の実現へとつなげていくとの方向性を持って多様な学知を結集することで、社会に貢献をしていきたいと考えています。

2018年4月1日に、東京大学の正式の組織として設置された地域未来社会連携研究機構(以下、地域未来機構)では、地域の課題解決に関わる東大内の11の部局(総合文化研究科、工学系研究科、人文社会系研究科、農学生命科学研究科、経済学研究科、新領域創成科学研究科、社会科学研究所、先端科学技術研究センター、空間情報科学研究センター、未来ビジョン研究センター、生産技術研究所)に属する多様な研究者が密に連携することで、先に述べたような地域のより良い未来の実現に向けて、研究・地域連携・人材育成の3局面で相乗効果を発揮することを目指しています。

具体的には、地域未来機構は、駒場Iキャンパス10号館の4階に事務局を置くとともに、北陸(白山市)と三重にサテライトを持ち、自然環境学、地理学、都市工学、農学、経済学、社会学、空間情報学、次世代情報通信など、多様な分野の研究者によるフィールドワークの成果と、GIS(地理情報システム)や人工知能によるビッグデータの解析やマッピング等を統合して、新たな「地域の知」の構築を進めています。また、教育に関しては、多様な切り口からの講義とフィールドワークから成る部局横断型の「地域未来社会」教育プログラムを運営するほか、多くの地域で強く求められているデータサイエンス・深層学習やアントレプレナーシップに関する人材育成に関し、産学共同により構築したカリキュラムや専門性の高いコンテンツを活かして参画することで、「新しい学習地域」の創生にも積極的に貢献をしていきます。

さらに、日本国内の16の機関(国立社会保障・人口問題研究所、公益財団法人九州経済調査協会、公益財団法人中部圏社会経済研究所、公益財団法人中国地域創造研究センター、一般財団法人北陸産業活性化センター、一般財団法人日本立地センター、株式会社日本政策投資銀行、金沢工業大学地方創生研究所、三重大学地域創生戦略企画室、福井県立大学地域連携本部、一般財団法人南西地域産業活性化センター、石川県白山市、はまなす財団、三重県四日市市、沖縄県那覇市、中海・宍道湖・大山圏域市長会)が、学外の連携先となっており、共同研究や人材交流をはじめ、地方ブロック圏域の政策に関わることを通じて、実践から地域のより良い未来を考えるハブ拠点の一つとなりたいと考えています。

地域のより良い未来創成に向けた分野横断的な活動に関心をお持ちの方々には、ぜひ、地域未来機構の研究・教育活動やフィールドワークに加わっていただくことを期待しています。

地域未来社会連携研究機構 機構長
坂田一郎