三重サテライト通信

令和5年度四日市市受託研究のご報告

東京大学地域未来社会連携研究機構では、2019年に四日市市と連携協定を締結して以来、毎年、様々なテーマで研究を受託しています。今年度は、四日市市より「『四日市市多文化共生推進プラン』の将来的な改訂に向け、政策提言を行って欲しい」という要望を受け、「四日市市における外国籍市民*の社会参加に関する研究」をテーマに取り組みました。四日市市在住の外国籍市民を対象にアンケート調査を実施し、外国籍市民の地域活動への参加や地域の日本人とのかかわりなどの実態を把握し、政策的な課題を明らかにすることが目的です。研究計画から必要なデータ・資料の提供まで、主に、四日市市政策推進課と四日市市多文化共生推進室の方々にお力添えいただきました。調査概要は次の通りです。

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○調査期間
2023年11月20日~12月20日

○調査対象
外国籍を有する四日市市在住の18歳以上の市民3,600人(無作為抽出)

○調査方法
郵送による配布・返信用封筒による回収方式

○調査票の言語
・「やさしい日本語」:全員
・7つの外国語(ポルトガル語、スペイン語、フィリピノ語(タガログ語)、ベトナム語、ネパール語、中国語(簡体字)、英語):該当する調査対象者に同封
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調査は、学内の研究倫理審査(2023年10月17日承認)を経て実施しました。調査対象者には、依頼文(「やさしい日本語」で表記)と調査票を配布し、依頼文には、研究目的と研究への参加が完全に調査対象者の自由意思に基づくものであることを明記し、同意する場合にのみ回答することができること、また、研究に協力しないことで不利益を被ることはないこと、さらに、回答後に同意を撤回することもできることを説明しました。また、個人情報保護の観点から、調査票には符号を振り、回収された調査票から個人が特定されないようにしました。

有効回答数は752件、回答率は20.9%でした。調査結果と政策提言を報告書にまとめ、2024年3月21日に四日市市政策推進課へ提出しました。報告書は、下記よりご覧ください。

調査結果より、主に、次のような特徴がみられます(あくまで目安です)。

  • 外国籍市民全体の地域活動への参加率は50%に満たない

四日市市では、参加率60.0%を目標に掲げていますが、2021年3月に四日市市が行った調査結果(50.4%)よりも低い結果となりました。

  • 留学生の地域活動への参加率は30%に満たない

四日市市では、留学生が「多文化共生の地域づくりのキーパーソン」になることに期待していますが、現時点では、留学生は、外国籍市民全体よりも地域活動への参加率が低いことが明らかになりました。

  • 留学生の地域活動への参加には、情報提供と地域の日本人とのかかわりがカギ

留学生の約8割が地域活動に参加する必要性を認識していました。ただし、地域活動を知らないこと(45%)、一緒に参加する地域の日本人がいないこと(25%)が地域活動への参加を妨げる主な要因となっていました。一方で、日本語能力(10%)や忙しさ(10%)は、それほど大きな要因とはなっていないことが分かりました。

  • 日本語が「ほとんどできない」と回答した外国籍市民は約4分の1

また、日本語が「ほとんどできない」と回答した外国籍市民は、外国籍市民全体の場合よりも地域の日本語教室への参加率が10%ほど高い結果となりました。

  • 外国籍市民の地域への愛着が非常に高い

今回の調査では、外国籍市民全体の約9割、留学生においては全員が「地域がとても好き/好き」と回答しました。この結果は、特に今後の人口減少対策においても注目すべき結果だと考えます。


また、調査結果をもとに政策提言として、次の5つのことを挙げました。

  • 地域活動に関する定期的な情報提供と継続的な啓発

外国籍市民全体の約半数が地域活動に参加する必要性を感じておらず、約3分の1が地域活動に参加していないことから、地域活動に参加する意義を啓発し続け、地域活動の認知度と参加意識を高める必要があります。

  • 日本人と外国籍市民の居住地区における日常的なかかわりの増大

四日市市在住の外国籍市民は地域に対する愛着がとても高いことが分かった一方で、外国籍市民全体の約2割が地域の日本人を信頼しておらず、約3割が日本人とかかわる必要性を感じていないことも分かりました。ただし、地域の日本人と何の接点もない外国籍市民は約4%に留まり、約半数が会釈や挨拶を交わしていることが明らかになりました。そこで、まずは声を出さずに会釈することから始め、その次のステップとして挨拶を交わし、挨拶するような仲になったら天気などの簡単な会話を挨拶に加えるなどして、日本人と外国籍市民がともに徐々に日常的な接点を増やし、相互の不信感を払拭できるよう啓発していく必要があります。

  • 留学生が地域活動に参加しやすい環境整備

今回の調査において政策と実態に大きな乖離が見られたのが留学生です。調査結果より、留学生は自治会を知らず、加入もしていないことが分かりました。しかしながら、自治会の認知・加入にかかわらず、地域活動に参加している留学生も一定数います。これを受け、自治体は、留学生の通う学校と自治会との連携を強化し、留学生が自治会活動に関する情報を定期的に得られるように体制を構築する必要があります。また、留学生においては、約9割がすでに地域の日本人と何らかの接点を持っていることから、現在、留学生と何らかのかかわりのある地域の日本人に、自身が留学生と地域の紐帯になり得ることを伝え、ともに地域活動に参加しやすい環境を整備していくことが重要だと考えます。

  • 日本語が「ほとんどできない」と認識している外国籍市民に地域の日本語教室への参加を促す

特に、日本語が「ほとんどできない」と回答した外国籍市民については、彼ら・彼女らが日本語を習得する必要性を感じたときにいつでも地域の日本語教室に参加し、日本語を習得するという選択肢を持つことが出来るように、地域の日本語教室への参加を継続的に呼び掛けていく必要があります。

  • 地域における多様な主体との連携強化

四日市市在住の外国籍市民数が増加しているなか(2023年12月末時点で19,832人)、今回の調査で明らかになったすべての課題に四日市市多文化共生推進室だけで取り組むことは困難です。そこで、自治体のみならず、この調査の結果と政策提言を自治会、留学生を受け入れている学校、NGO、政治家などとも幅広く共有して課題に対する共通認識を持ち、相互補完的な関係を築いていくことが大切だと考えます。

以上、まずは、簡易的な分析結果ではありますが、自治体、NGO、ボランティアの方々など、多文化共生や外国人受け入れに携わっていらっしゃる多くの皆様のお役に立てることがありましたら幸いです。今後は、集計データをもとに、いろいろな角度から分析を重ね、学術論文にまとめていく予定です。

最後に、この度、調査にご協力いただきました四日市市在住の外国籍市民の方々をはじめ、お力添えを賜りました四日市市政策推進課、四日市市多文化共生推進室、ユマニテクライフデザイン専門学校の皆様に心より御礼申し上げます。

*本稿では、便宜的に、外国籍者を「外国籍市民」と表記します。