ユマニテクプラザ5者協定締結5周年記念セミナーのご報告
2024年3月28日(木)14:00から17:30頃まで、四日市市にありますユマニテクプラザにて、「グローバリゼーションの時代において、日本有数の産業集積地である三重県北勢地域にとって有益な産学官連携とは」をテーマに、ユマニテクプラザ5者協定締結5周年記念セミナーを開催しましたので、ご報告いたします。当日は約70名の方々にご参加いただきました。
当日は、みえ大橋学園の大橋理事長様の挨拶の後、まず、報告①として、三重大学副学長兼北勢サテライト長の今西教授が「『地域共創大学』に挑戦している三重大学が北勢地域で実践した産学官連携とは」をテーマに講演し、三重大学での産学官連携の取り組みを紹介しました。
次いで報告②では、東京大学地域未来社会連携研究機構三重サテライトの土田千愛特任助教が「外国籍者との共生と人口減少対策に向けた産学官連携の在り方」をテーマに、お話しました。報告②の前半では、主に研究活動における四日市市との連携を紹介しました。そして、四日市市との連携から得られた示唆として、連携には、
- 特定の地域課題を解決するために、その分野を専門とする研究者と実務家(自治体、NGOなど)がともに問題意識を共有すること
- 密な連絡、必要に応じた面談、双方のイベントへの参加などを重ねて、地域課題に関する「悩み」を共有できるような信頼関係を構築すること
が大切であるという考えを共有しました。そして、連携は目的ではなく、あくまで地域課題を解決するための手段であるべきだと強調しました。
出典:みえ大橋学園提供
また、報告②の後半では、人口減少と外国籍者数の増加によって地域社会が変容するなか、今後の産学官連携に向けて三重県北勢地域で取り組むべき研究課題を提示しました。まず、現況として、2023年12月時点で日本に在留する外国籍者数は341万人を超え、三重県在住の外国籍者数(62,561人)も過去最多を更新しました。近年、政府は、出入国管理政策をどんどん緩和し、いわゆる外国人労働者の受け入れの拡大を図っており、日本はファーストキャリアの国として選ばれやすくなっています。併せて、北勢地域では、企業や学校法人が自ら海外に赴き、人材確保を行っているところも少なくないため、今後も北勢地域における外国籍者数は増加していくものと思われます。
出典:みえ大橋学園提供
ただし、日本では、諸外国のように移民の受け入れを表明していないため、社会統合について政府は明確な方針を打ち出すに至っておらず、実質的な政策は各自治体に委ねられているのが現状です。また、これまで多文化共生政策は、製造業が盛んな外国人集住地域で日系ブラジル人などを想定して発展してきた政策であるため、支援の側面が強く見られます。そのようなことから、定住を前提としない留学生や外国人労働者には「何をどこまで行えば良いかが分からない」という壁に直面しやすい政策状況にあります。そこで、北勢地域における特徴を踏まえ、今後は、
1.留学生や外国人労働者など一時的にいるたちとどう共生するのか
2.外国人住民≠留学生、外国人労働者という実態にどう対処するのか
といった視点も取り入れて「地域の担い手」の確保、ひいては少子高齢化や人口減少によって起きている労働力不足や地域づくりの担い手の不足といった課題に、産学官が連携してアプローチする必要があることを示しました。そして、研究としては、学校法人や企業の皆様からご協力いただけるのであれば、外国籍者の社会統合に関する実態を調査し、自治体の施策を社会統合の観点から政策評価したいとお伝えしました。
出典:みえ大橋学園提供
パネルディスカッションは、
- 産学官連携による研究開発の狙いはどこにあるのか
- 担い手の確保に向けた仕組みをどう構築していけるのか
という2つの論点で、ユマニテクプラザの藤井館長様の進行のもと、三重大学、三重県、三重県産業支援センター、東京大学それぞれが見解を述べました。
まず、論点①について、土田特任助教は、大学教員として地域に常駐し、様々な方々とかかわってきたという経験を踏まえて、
- 1つの物事を深く追求した先で自分(たちの組織)だけでは解決できない課題に直面したときこそ、他者の力が必要になるとき≒産学官連携が必要なときであること
- そうした「悩み」は、日常的なコミュニケーションを重ねている過程で共有されやすいこと
をお話しました。ただし、共有された「悩み」が本質的であればあるほど簡単に解決策を導き出すのは困難であること、さらに、大学が研究成果をもとに政策提言を行うまでには通常、時間を要することもお伝えしました。
出典:みえ大橋学園提供
また、論点②については、
- 一時的な居住者へのアプローチ
- 譲れないものの明確化と発想の転換
についてお話しました。報告②の中でも触れたように、日本は外国籍者にとって「入ってきやすい国」になる一方で、住み続ける・働き続けることは依然として難しいままです。まず、「住み続ける」については、定住を前提としない外国籍者の一時的な居住にどのように対応するかを日本人の単身赴任者などと同じ文脈で検討していくことが重要です。さらに、「働き続ける」については、外国籍者に「日本人化」を求めるのではなく、また、大切なことを譲歩してしまわないように、譲れない大切な価値観や慣習は何かを明確にしたうえで、「働きづらさ」を生み出しているところについて、柔軟に発想を転換させていくことの大切さをお話しました。
年度末のお忙しいところ、長丁場だったにもかかわらず、ご参加いただきました皆様、誠にありがとうございました。